急速な都市化と人口集中

ウランバートル(Ulaanbaatar)都市開発マスタープラン 2030

急激な都市化が進むモンゴル投資の根拠

モンゴルの首都ウランバートルは、急速な都市化と人口集中に直面しており、都市環境・インフラ・住環境・交通システムなど多方面での課題を抱えています。こうした背景を踏まえ、都市の中長期的な成長・居住性・持続可能性を確保するために策定されたのが、「Ulaanbaatar 2020 Master Plan and Development Approaches for 2030(以下 マスタープラン 2030)※」です。(アジア太平洋エネルギー政策)

※正式名称・和訳表記は資料毎に若干異なります。

以下、マスタープラン2030の概要、主な施策、投資・事業機会、そして課題・留意点という構成で整理します。


1. マスタープラン2030の位置づけと目的

マスタープラン2030は、ウランバートル市が2030年までに目指す都市像・土地利用・交通・インフラ・住環境・環境保全などを包括的に整理した長期ビジョンです。(オープンJICA報告書)
特に次のような目的を掲げています。

  • 中核都市としての集中を緩和し、周辺地域・サテライト都市とのバランスを図ること。(Metropolis)
  • 交通混雑、住環境の悪化、大気汚染・ヒーター汚染といった都市特有の課題に対処し、住みやすい都市を実現すること。(UNESCAP)
  • インフラ未整備地域(特にゲル地区/伝統的遊牧民住居地域からの都市拡張部)を整備し、住民の生活水準を引き上げること。(Development Asia)
  • 環境・持続可能性の観点から、グリーン・シティ化、公共交通整備、土地利用の効率化を図ること。(ebrdgreencities.com)

2. 主なターゲットと数値目標

マスタープラン2030では、具体的な中長期目標および指標が設定されています。例として以下。

  • 2030年までにアパート等集中住宅(集中暖房・インフラ整備済住居)に居住する市民割合を70.1%まで引き上げる。(持続可能な開発知識プラットフォーム)
  • 2030年までに住民一人あたりの緑地面積を30 m²にまで増やす目標。(witpress.com)
  • 公共交通・歩行・自転車ネットワークの整備、将来のCO₂削減やモビリティ改善を目指す。(itf-oecd.org)
  • 都市インフラ(上下水道、暖房・給湯、道路網、公共交通系統等)の整備。(オープンJICA報告書)

3. 主要な施策領域

マスタープラン2030では、主に「ハード(インフラ・物理整備)」「ソフト(制度・法制度・計画体系)」「人材・組織(キャパシティ・行政能力強化)」の三つの柱で都市開発プログラムが構成されています。(オープンJICA報告書)
以下、主要な領域をご紹介します。

(a) 交通とモビリティ整備

  • 公共交通システム(バス、将来的にはLRT・地下鉄も想定)・優先車線の整備。(itf-oecd.org)
  • 道路網の拡充、交差点の整備、歩行者・自転車ネットワークの整備。(UNESCAP)
  • 自動車集中・渋滞・旧車対策による環境改善・交通効率化。(持続可能な開発知識プラットフォーム)

(b) 住環境・ゲル地区(遊牧民スタイル木造住居地域)再整備

  • 都市拡大部、特にゲル地区において、上下水道、暖房、街路整備等基盤インフラの導入。(Development Asia)
  • 安価でグリーンな住宅開発、気候変動・汚染対策を備えた住まいづくり。(ebrdgreencities.com)

(c) 環境・グリーンシティ化

  • 緑地・オープンスペースの拡大、都市の環境改善。(witpress.com)
  • 廃棄物管理、上下水道・下水処理、暖房・給湯インフラの改善。(オープンJICA報告書)

(d) 土地利用・拠点形成/サテライト都市化

  • 単一中心(モノセントリック)都市構造から脱し、複数拠点(マルチコア)モデルへ転換。(Metropolis)
  • 周縁地域・郊外の活用、都市のスプロール(過剰拡大)抑制。(Boym Institute)

(e) 制度・法制度・行政能力強化


4. 投資・事業機会の観点から

このマスタープラン2030は、日本をはじめとする国際投資家・企業にとっても興味深い対象となり得ます。以下のようなポイントが挙げられます。

  • 交通インフラ(公共交通車両、バスシステム、道路整備、優先車線)やモビリティソリューション(ITS、電気バス・EV化)で機会。
  • 住宅・都市インフラ整備(上下水道、暖房、住居開発)特にゲル地区再整備関連。
  • 環境・エネルギー・グリーン建築(省エネ住宅、再生可能エネルギー)領域。
  • 土地利用の再構築・都市住宅・商業開発。都市内サテライト拠点開発。
  • 制度・法制度支援、自治体コンサルティング、都市計画管理ソフトウェア等。
    日本企業が技術力・施工力・ノウハウを提供する余地が大きく、また、親日的なモンゴルの環境下では信頼構築も進みやすいと言えます。

5. 課題と留意点

ただし、マスタープラン2030を実現する上では以下のようなチャレンジも指摘されています。

  • 緑地30 m²/人などの目標について、実際の行政・財源・制度設計が十分でないという分析があります。(witpress.com)
  • ゲル地区のインフラ整備・住環境改善は進んでいるものの、未計画な居住地拡大(スプロール)が続いており、土地利用・都市統治の面で課題あり。(Boym Institute)
  • 交通・公共モビリティ整備では、旧車・渋滞・公共交通への依存低さなどが残っており、実効性のある施策の定着が求められています。(itf-oecd.org)
  • 財源・資金調達・実施体制(法制度・行政能力)にはまだ強化の余地があるという指摘あり。(witpress.com)

6. 投資家・事業者への提言

ウランバートルの都市開発プランを活用するにあたって、以下のような視点が有効です。

  • 長期視点で「2030年」というタイムラインを念頭に、段階的・複数フェーズでの参入検討。
  • 公共セクター・国際機関(例:Asian Development Bank (ADB) 他)との協働案件を視野に入れる。実際、「ゲル地区再開発」はADBも支援しています。(Development Asia)
  • 環境・省エネ・グリーンインフラといった差別化可能な技術・サービス分野を軸にする。
  • 土地利用・都市計画にかかわる制度・法規の変化を注視。モンゴル政府・ウランバートル市の政策推進姿勢を見極める。
  • 住宅・住環境分野では、ゲル地区から都市部への移行・インフラ供給という構造を理解すること。
  • リスク管理として、資金調達・法的整備・実施体制・気候・環境面(寒冷地気候・冬季暖房需要)も検討材料に。

7. まとめ

ウランバートルのマスタープラン2030は、都市構造の転換・住環境の質向上・モビリティの改善・環境面での革新的な展開を目指す包括的な設計図です。日本企業・投資家にとっては、技術・インフラ・都市開発ノウハウを活かす多くの機会があり、モンゴル側も日本との連携に好意的であるため、両国パートナーシップの中で特に注目すべき都市開発テーマと捉えられます。